多摩川通信

昭和・平成の思い出など

木の上のゴッホ

ゴッホの手紙 (新潮文庫) 作者:小林 秀雄 新潮社 Amazon 先日、随分と久しぶりに従姉に会った。すでに還暦を過ぎて何年も経ったはずなのだが、相応に歳をとったようには見えない。若い時から鄙には稀なという言葉そのもののような人だったが、嫋やかな風情は…

ゆりかごの前

なぜ、わが子を棄てるのか―「赤ちゃんポスト」10年の真実 (NHK出版新書 551) 作者:NHK取材班 NHK出版 Amazon 昨年春先に脳梗塞で倒れた老父が点滴だけで命脈を保っている。この1年数か月の間に3つの病院と1つの老人施設でお世話になった。そのどこでも実…

昭和の遠景とプロ野球中継 

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book) 作者:鈴木 忠平 文藝春秋 Amazon 昭和の居間にプロ野球中継はよく似合った。ブラウン管テレビの前で、のんびりした団らんと野球のリズムが調和していた。 平成が年を重ねるにつれてテレビの野球中…

サラリーマン

お祈りメール来た、日本死ね 「日本型新卒一括採用」を考える (文春新書) 作者:海老原 嗣生 文藝春秋 Amazon 1980年代の名物TV番組「オレたちひょうきん族」で、「サラリーマン」というキャラクターが登場したことがある。変身するとスーツ姿の「サラリーマ…

草原の反乱

内モンゴル紛争 ――危機の民族地政学 (ちくま新書) 作者:楊 海英 筑摩書房 Amazon ウクライナの趣のある美しい街並みが、あっという間に色彩のない瓦礫の廃墟に変わってしまった。戦場の現実がリアルタイムで手元に届く。 最近よく耳にする「抑止」という美し…

M資金の実像

もう一つの戦後史 M資金が動き出す 作者:ダイアプレス Amazon 「M資金詐欺」という古典的な詐欺事件がある。戦後混乱期のロマンと昭和の香りを色濃くまとって、ごく最近に至るまで繰り返し立ち現れては世間を騒がした。事件そのものは全くの詐欺なのだが、そ…

シンギュラリティ

AIは人類を駆逐するのか? 自律世界の到来 作者:太田 裕朗 幻冬舎 Amazon 昭和48年(1973年)、大きな話題を呼んだ2冊のベストセラーが出版された。「日本沈没」(小松左京)と「ノストラダムスの大予言」(五島勉)である。この2冊は多感な中学生の心を強烈…

グッチの再生と飛躍 

ハウス・オブ・グッチ 上 (ハヤカワ文庫NF) 作者:サラ ゲイ フォーデン 早川書房 Amazon 1980年代後半、ニューヨークに行く機会があり、5番街でグッチの店をのぞいてみた。特に何かを買うつもりはなかったのだが、鮮やかな色どりの女性ものの大きなスカーフ…

第442連隊戦闘団

二世兵士 激戦の記録―日系アメリカ人の第二次大戦―(新潮新書) 作者:柳田由紀子 新潮社 Amazon 「武士道というは死ぬ事と見つけたり」 戦(いくさ)における兵(つわもの)の本領を見事に言い尽くした一言、と言いたいところだが、「葉隠」のこの有名な言葉…

天安門事件と鄧小平の思い出

八九六四 完全版 「天安門事件」から香港デモへ (角川新書) 作者:安田 峰俊 KADOKAWA Amazon 12月9日~10日、米国主催の「民主主義サミット」がオンライン形式で開催された。中国とロシアは招かれなかった。 バイデンとしては大統領選挙の公約を果たしただけ…

キッシンジャーは何のために田中邸を訪ねたか

ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス (角川書店単行本) 作者:春名 幹男 KADOKAWA Amazon 昭和51年(1976 年)の夏のある日、田中角栄は神楽坂の別宅に向かった。 「お前たちは心配しなくていい」と別宅の家族を安心させるために足を運んだのである。東京拘…

習近平の歴史決議を読んで

中国の大盗賊・完全版 (講談社現代新書) 作者:高島俊男 講談社 Amazon 11月11日、中国共産党は、第19期中央委員会第6回全体会議で採択された「党の百年奮闘の重要な成果と歴史的経験に関する中共中央の決議」(いわゆる「歴史決議」)について声明を発表した…

幕末を見た人々

増補 幕末百話 (岩波文庫) 作者:篠田 鉱造 岩波書店 Amazon 朝日新聞の「天声人語」は、1904年(明治37年)に掲載が始まった。そのタイトルは「天に声あり、人をして語らしむ」という「中国の古典」の言葉に由来するとされる。しかし、どうもその出自はあや…

司法の独立とは

最高裁物語〈上〉秘密主義と謀略の時代 (講談社プラスアルファ文庫)作者:山本 祐司講談社Amazon 昭和19年(1944年)春、陸軍大将の軍服に長靴を履いた東條首相は、司法大臣を従えて、全国から集まった裁判所長官に対して訓示した。当日の夕刊で報じられたそ…

イスラエル建国の正当性を巡って

ユダヤ人の起源: 歴史はどのように創作されたのか (ちくま学芸文庫) 作者:サンド,シュロモー 筑摩書房 Amazon 古代、パレスチナはエジプトが支配する地域だったが、紀元前1021年、パレスチナの地にユダヤ人のイスラエル王国が誕生した。後に一部地域がユダ王…

オリンピアンの栄光と孤独

たった一人のオリンピック (角川新書) 作者:山際 淳司 KADOKAWA Amazon 東京オリンピックの期間中、テレビの画面を通してオリンピアンたちの数々の栄光を目にした。連日の日本人選手たちの活躍にはコロナの鬱屈を忘れて歓喜に浸った。同時に、それらの栄光の…

オリンピック

古代オリンピック 全裸の祭典 (河出文庫) 作者:トニー・ペロテット 河出書房新社 Amazon オリンピックが最初に開催されたのは紀元前776年である。その頃、ギリシャ全土で疫病が蔓延していた。まるで今と似たような状況である。この疫病を鎮めるため、アポロ…

日本サッカーの暗黒時代

デットマール・クラマー 日本サッカー改革論 作者:中条一雄 ベースボール・マガジン社 Amazon 小学校6年生の秋、田舎の個人病院の待合室で診察を待つ間、白黒テレビに流れるイングランド・サッカーの試合を見るともなく見ていた。タッチライン沿いをドリブル…

フランス革命下の市民の日常

フランス革命下の一市民の日記―1791~1796 作者:セレスタン・ギタール 中央公論新社 Amazon 日記帖には、たいてい日々の天気を記載する欄が備わっているが、その必要性についてあまり意識したことはなかった。だが、フランス革命期にパリで暮らしていた平民で…

闘う牧水

若山牧水―流浪する魂の歌 (中公文庫 M 100-2) 作者:大岡 信 中央公論新社 Amazon 幾山河こえさりゆかば寂しさのはてなむ国ぞけふも旅ゆく わが小枝子思ひいづればふくみたる酒のにほひの寂しくあるかな かたはらに秋ぐさの花かたるらくほろびしものはなつか…

アフリカの中国人

中国第二の大陸 アフリカ:一〇〇万の移民が築く新たな帝国 作者:ハワード・W・フレンチ 発売日: 2016/02/27 メディア: 単行本 アフリカ大陸自由貿易圏協定(African Continental Free Trade Area:AfCFTA)の運用が2021年1月からはじまった。アフリカの54カ…

万葉の調べ

万葉集講義-最古の歌集の素顔 (中公新書) 作者:上野 誠 発売日: 2020/09/18 メディア: 新書 万葉集はすべて漢字で書かれている。 日本で漢字が使われるようになったのは4世紀末から5世紀初めだという。いにしえより日本固有の言葉で声に出して歌われていた…

I Have a Dream

アメリカ黒人史 ――奴隷制からBLMまで (ちくま新書) 作者:バーダマン,ジェームス・M. 発売日: 2020/12/09 メディア: 新書 「 われわれは今日も明日も困難に直面するが、それでも私には夢がある。それは、アメリカの夢に深く根ざした夢である 」 ( 「私には夢…

尊厳死について

安楽死を遂げるまで 作者:宮下洋一 発売日: 2018/01/05 メディア: Kindle版 老父が脳梗塞で入院し、新型ウイルス対策で面会できないでいるうちに、看護師から体に力が入らなくなったと連絡があった。終りが近いと覚悟した。親族にも状況を伝え、「いい人だっ…

帝国日本人一座の大遠征

海を渡った幕末の曲芸団―高野広八の米欧漫遊記 (中公新書) 作者:宮永 孝 メディア: 新書 幕末の芸人を写した3点の写真がある。1866年(慶応2年)から1869年(明治2年)にかけて欧米各地を巡業した「帝国日本人一座」(Imperial Japanese Troupe)の芸人たち…

女優マダム・ハナコ

プチト・アナコ―小さい花子 作者:沢田 助太郎 メディア: 単行本 森鷗外の作品に「花子」という掌編小説がある。晩年のオーギュスト・ロダンに招かれて、日本人女優がその邸宅を訪問するという話である。 通訳として同行したパリ留学中の日本人医学士とともに…

ベトナムが独立にかけた思い

ベトナム戦争 誤算と誤解の戦場 (中公新書) 作者:松岡完 発売日: 2014/07/11 メディア: Kindle版 少年期を通じて「戦争」と言えばベトナム戦争だった。テレビやラジオのニュースでベトナム戦争について報じるアナウンサーの声はいつも固く暗かった。 ベトナ…

チェコスロバキア「ビロード革命」に潜む謎

東欧革命―権力の内側で何が起きたか (岩波新書) 作者:元博, 三浦,博康, 山崎 発売日: 1992/12/21 メディア: ペーパーバック 1989年は世界史上、極めて特異な年だった。東欧各国における社会主義体制の崩壊がこの1年に集中して起きた。以下に関連する出来事…

阿片と戦乱の歴史

満州裏史 甘粕正彦と岸信介が背負ったもの (講談社文庫) 作者:太田尚樹 発売日: 2016/04/08 メディア: Kindle版 阿片は芥子の実から採取される麻薬である。古代のエジプト・ギリシャでは鎮痛薬として用いられた。阿片を精製したものがモルヒネであり、モルヒ…

幕末の日露交渉

新装版 落日の宴 勘定奉行川路聖謨(上) (講談社文庫) 作者:吉村 昭 発売日: 2014/06/13 メディア: 文庫 19世紀半ば、極東は覚醒の時を迎えていた。阿片戦争(1840年-1842年)で清が英国に屈し、開港と通商の開放を内容とする南京条約が締結されたことをきっ…