多摩川通信

昭和・平成の思い出など

2022-01-01から1年間の記事一覧

登る理由

剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む 作者:高橋 大輔 朝日新聞出版 Amazon 登山はスポーツなのだろうか。たとえば短距離走であれば、学校の運動会からオリンピックに至るまでスポーツであることに疑問を差しはさむ余地はまったくない。上位の競技…

ドレフュスの声

ドレーフュス事件 (文庫クセジュ) 作者:ピエール ミケル 白水社 Amazon 「ドレフュス事件」は19世紀末のフランスで発生した軍事情報の漏洩にかかわる冤罪事件である。1通の手紙から始まったその事件は次第に奇怪な展開を遂げて膨れ上がり、フランスの国論を…

宅急便が目指したもの

小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの (小学館文庫) 作者:健, 森 小学館 Amazon 「宅急便」はヤマト運輸の登録商標である。同社は全国に遍く提供する宅配便サービスを初めて事業化した。それを実現した小倉昌男はヤマト運輸の二代目社…

重忠謀殺の背景を巡る夢想

中世武士 畠山重忠 歴史文化ライブラリー 作者:清水亮 吉川弘文館 Amazon 1205年7月10日正午頃、畠山重忠の軍勢130余騎は、武蔵国二俣川で北条義時率いる数万騎の大軍勢と対峙した。鎌倉に変事ありとの知らせを受けて出陣してきたのだが、先に鎌倉に出た嫡子…

玉砕の実情

満州とアッツの将軍 樋口季一郎 指揮官の決断 (文春新書) 作者:早坂 隆 文藝春秋 Amazon 1943年(昭和18年)5月30日午後5時、大本営はアッツ島守備隊が「全員玉砕せるものと認む」と発表した。アッツ島守備隊は最後の突撃を行う前に電信装置を破壊したため、…

韃靼人の踊りの果て

世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統 (ちくま文庫) 作者:岡田 英弘 筑摩書房 Amazon 「韃靼人の踊り」は、帝政ロシアの作曲家ボロディンのオペラ「イーゴリ公」の中の曲で、哀調を帯びた美しい旋律はテレビCMでもなじみ深い。 原曲名は「ポロヴェツ人の踊り」…

万葉のモーツァルト 古今のブラームス

七五調の謎をとく―日本語リズム原論 作者:坂野 信彦 大修館書店 Amazon クラリネット五重奏曲といえばモーツァルトとブラームスだろう。モーツァルトは1789年(33歳、死の2年前)に「クラリネット五重奏曲 イ長調」を、ブラームスは1891年(58歳)に「クラリ…

「ソ連」という信仰

ソ連という実験: 国家が管理する民主主義は可能か (筑摩選書) 作者:松戸 清裕 筑摩書房 Amazon ロシアのウクライナ侵攻後、同国の独立系調査機関レバダ・センターが3月に行った世論調査で、軍事作戦を支持するという回答が81%にものぼったというニュース…

木の上のゴッホ

ゴッホの手紙 (新潮文庫) 作者:小林 秀雄 新潮社 Amazon 先日、随分と久しぶりに従姉に会った。すでに還暦を過ぎて何年も経ったはずなのだが、相応に歳をとったようには見えない。若い時から鄙には稀なという言葉そのもののような人だったが、嫋やかな風情は…

ゆりかごの前

なぜ、わが子を棄てるのか―「赤ちゃんポスト」10年の真実 (NHK出版新書 551) 作者:NHK取材班 NHK出版 Amazon 昨年春先に脳梗塞で倒れた老父が点滴だけで命脈を保っている。この1年数か月の間に3つの病院と1つの老人施設でお世話になった。そのどこでも実…

昭和の遠景とプロ野球中継 

嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか (文春e-book) 作者:鈴木 忠平 文藝春秋 Amazon 昭和の居間にプロ野球中継はよく似合った。ブラウン管テレビの前で、のんびりした団らんと野球のリズムが調和していた。 平成が年を重ねるにつれてテレビの野球中…

サラリーマン

お祈りメール来た、日本死ね 「日本型新卒一括採用」を考える (文春新書) 作者:海老原 嗣生 文藝春秋 Amazon 1980年代の名物TV番組「オレたちひょうきん族」で、「サラリーマン」というキャラクターが登場したことがある。変身するとスーツ姿の「サラリーマ…

草原の反乱

内モンゴル紛争 ――危機の民族地政学 (ちくま新書) 作者:楊 海英 筑摩書房 Amazon ウクライナの趣のある美しい街並みが、あっという間に色彩のない瓦礫の廃墟に変わってしまった。戦場の現実がリアルタイムで手元に届く。 最近よく耳にする「抑止」という美し…

M資金の実像

もう一つの戦後史 M資金が動き出す 作者:ダイアプレス Amazon 「M資金詐欺」という古典的な詐欺事件がある。戦後混乱期のロマンと昭和の香りを色濃くまとって、ごく最近に至るまで繰り返し立ち現れては世間を騒がした。事件そのものは全くの詐欺なのだが、そ…

シンギュラリティ

AIは人類を駆逐するのか? 自律世界の到来 作者:太田 裕朗 幻冬舎 Amazon 昭和48年(1973年)、大きな話題を呼んだ2冊のベストセラーが出版された。「日本沈没」(小松左京)と「ノストラダムスの大予言」(五島勉)である。この2冊は多感な中学生の心を強烈…

グッチの再生と飛躍 

ハウス・オブ・グッチ 上 (ハヤカワ文庫NF) 作者:サラ ゲイ フォーデン 早川書房 Amazon 1980年代後半、ニューヨークに行く機会があり、5番街でグッチの店をのぞいてみた。特に何かを買うつもりはなかったのだが、鮮やかな色どりの女性ものの大きなスカーフ…

第442連隊戦闘団

二世兵士 激戦の記録―日系アメリカ人の第二次大戦―(新潮新書) 作者:柳田由紀子 新潮社 Amazon 「武士道というは死ぬ事と見つけたり」 戦(いくさ)における兵(つわもの)の本領を見事に言い尽くした一言、と言いたいところだが、「葉隠」のこの有名な言葉…