多摩川通信

昭和・平成の思い出など

ハル・ノートの「China」と満洲

日米開戦外交と「雪」作戦 ハル・ノートを書いた男 (文春新書 28) 作者:須藤 眞志 文藝春秋 Amazon 1941年11月26日、米国のコーデル・ハル国務長官は在米日本大使館の野村吉三郎と来栖三郎の二人の特命全権大使に対し「合衆国及び日本国間協定の基礎概略」と…

日本国憲法の栄誉

日本国憲法を生んだ密室の九日間 (角川ソフィア文庫) 作者:鈴木 昭典 KADOKAWA/角川学芸出版 Amazon 戦後まもなく制定されたある法律について国立公文書館で立法時の資料を閲覧したことがある。出てきたのは厚紙の表紙に紐で綴られた分厚いもので、開けてみ…

限界集落は招くよ

限界ニュータウン 作者:吉川祐介 太郎次郎社エディタス Amazon 数年前、東京で高校時代の友人と歓談したときのこと。帰省した折にわざわざ私の実家がある集落を車で通り抜けてみたらしい。「いいところだね」と言う。お世辞を言い合う間柄ではないから本当に…

陰謀論では済まない

9/11: 爆破の証拠 - 専門家は語る Richard Gage Amazon 「9・11の矛盾 ー 9・11委員会報告書が黙殺した重大な事実」(デヴィッド・レイ・グリフィン/緑風出版)を読み、ドキュメンタリー「911:爆破の証拠ー専門家は語る」を見て、今さらながら陰…

シーボルト事件とは何だったのか

文政十一年のスパイ合戦―検証・謎のシーボルト事件 作者:秦 新二 文藝春秋 Amazon 1829年12月30日、33歳のシーボルトを乗せたオランダ汽船が出島を離れて港口に差し掛かった時、汽船に向かって漕ぎ寄せる一艘の小舟があった。やがて汽船からもボー…

打ち続けること

人生はそれでも続く(新潮新書) 作者:読売新聞社会部「あれから」取材班 新潮社 Amazon 10年ほど前だろうか、テレビの囲碁対局であまりに早く大勢が決まってしまったことがあった。往年の名棋士である解説者によると、もはやどうにも挽回のしようがない状…

伊藤博文のVサイン

伊藤博文 近代日本を創った男 (講談社学術文庫) 作者:伊藤之雄 講談社 Amazon 明治20年(1887年)4月20日午後9時、鹿鳴館時代のクライマックスとして歴史に刻まれた仮装舞踏会が幕を開けた。時事新報は「内外朝野の貴顕紳士及び其夫人等の参集はほ…

対米開戦の責任を問う

日本人はなぜ戦争へと向かったのか: メディアと民衆・指導者編 (新潮文庫) 作者:NHKスペシャル取材班 新潮社 Amazon 1931年(昭和6年)の満州事変から太平洋戦争へと至る歴史の中でどうにも理解に苦しむのは、陸海軍がともに勝ち目がないと考えていたは…

原爆の経緯と責任

ロバート・オッペンハイマー ――愚者としての科学者 (ちくま学芸文庫) 作者:藤永茂 筑摩書房 Amazon 「ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者」(藤永茂/ちくま学芸文庫)は、「原爆の父」として歴史に名を刻んだ米国の理論物理学者ロバート・オッ…

デカブリストの乱

秘史デカブリストの乱―ニコライ1世の即位 恒文社 Amazon 1819年の夏、若きニコライは、年の離れた長兄のロシア帝国皇帝アレクサンドル1世から、次の皇帝となるべく覚悟をうながされた。このとき、ニコライは絶望のあまり妻とともに泣き崩れた。 アレク…

保守の変容

フランス革命についての省察 (光文社古典新訳文庫) 作者:エドマンド・バーク 光文社 Amazon 「フランス革命についての省察」(エドマンド・バーク/光文社古典新訳文庫)を読んでみた。もし、これから本書を読む人がいれば、巻末の訳者による解説から読み始…

スポーツシューズへの挑戦

SHOE DOG(シュードッグ)―靴にすべてを。 作者:フィル・ナイト 東洋経済新報社 Amazon 私の個人的な感覚ではサッカーシューズとサッカースパイクは別物だ。サッカーシューズは合成樹脂のアウトソールと一体型で低いスタッド(突起)が多数並んでいる…

幕末の真相

幕末維新史への招待 山川出版社 Amazon 幕末史はわかりにくい。「開国」と「攘夷」、「公武合体」と「倒幕」、といった対立関係がいつの間にか逆転したり入れ替わったりしてしまうため、私のような素人には展開の因果関係が容易には理解できない。「何でそう…

DNAの人間模様

二重らせん第三の男 作者:モーリス・ウィルキンズ 岩波書店 Amazon 今から70年前の春、ふたつの偉業が達成された。世界最高峰エベレストへの初登頂とDNAの内部構造の解明である。 DNAの構造は二重らせんの模型で提示された。相互に反対方向に並行する…

インターネットの抜本的な革新が必要では

アップルvs.グーグル (SB新書) 作者:小川 浩,林 信行 SBクリエイティブ Amazon インターネットの起源は半世紀以上も昔の米国国防省の実験プロジェクトにさかのぼる。1969年、米国の4つの大学のコンピューターを接続するネットワークの実験が開始された。こ…

あるシベリア抑留者の手記

収容所(ラーゲリ)から来た遺書 (文春文庫) 作者:辺見 じゅん 文藝春秋 Amazon 厚労省の調査によると、1945年の終戦時、日本人(軍人、役人、民間人)約57万5千人がソ連各地の強制収容所に連行された。そのうち5万5千人が抑留中に死亡し、47万3千人が日本に…

悲劇の背景

東芝の悲劇 (幻冬舎文庫) 作者:大鹿靖明 幻冬舎 Amazon スーパーでメザシの前を通るとき、ついうっかり一礼してしまいそうになる。土光さん宅の食卓のメザシが一躍脚光を浴びたのは40年も昔のことだ。当時、土光敏夫は東芝の社長・会長を経て、第二次臨時行…

帝国の幻影

神聖ローマ帝国 (講談社現代新書) 作者:菊池良生 講談社 Amazon むかし神聖ローマ帝国という国があった。古代ローマ帝国の親戚のようでもあり、本家を上回るほどの立派な雰囲気でもある。初めて耳にしたときは、それほどの偉大な国を知らなかった迂闊さにう…

運命のレイキャビク

アイスランドからの警鐘―国家破綻の現実 作者:アウスゲイル・ジョウンソン,Asgeir Jonsson 新泉社 Amazon アイスランドは北極圏の島国である。スカンジナビア半島とグリーンランドに囲まれたノルウェー海に位置する。韓国より少し大きいぐらいの面積で人口は…

SNS第2章への期待

フェイスブック 若き天才の野望 作者:デビッド カークパトリック 日経BP Amazon フェイスブックのユーザー数は世界全体で29億人を超える。世界最大のソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)である。「フェイスブック」(デビッド・カークパトリック…

水平を越えて

被差別部落の青春 (講談社文庫) 作者:角岡伸彦 講談社 Amazon かつて東北では集落のことを普通に「部落」と呼んでいたのだが、最近、地方紙や自治体の広報誌などで一向にその表記を見ないことに気がついた。ひょっとしてと、ネットで調べてみたらやはりそう…

登る理由

剱岳 線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む 作者:高橋 大輔 朝日新聞出版 Amazon 登山はスポーツなのだろうか。たとえば短距離走であれば、学校の運動会からオリンピックに至るまでスポーツであることに疑問を差しはさむ余地はまったくない。上位の競技…

ドレフュスの声

ドレーフュス事件 (文庫クセジュ) 作者:ピエール ミケル 白水社 Amazon 「ドレフュス事件」は19世紀末のフランスで発生した軍事情報の漏洩にかかわる冤罪事件である。1通の手紙から始まったその事件は次第に奇怪な展開を遂げて膨れ上がり、フランスの国論を…

宅急便が目指したもの

小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの (小学館文庫) 作者:健, 森 小学館 Amazon 「宅急便」はヤマト運輸の登録商標である。同社は全国に遍く提供する宅配便サービスを初めて事業化した。それを実現した小倉昌男はヤマト運輸の二代目社…

重忠謀殺の背景を巡る夢想

中世武士 畠山重忠 歴史文化ライブラリー 作者:清水亮 吉川弘文館 Amazon 1205年7月10日正午頃、畠山重忠の軍勢130余騎は、武蔵国二俣川で北条義時率いる数万騎の大軍勢と対峙した。鎌倉に変事ありとの知らせを受けて出陣してきたのだが、先に鎌倉に出た嫡子…

玉砕の実情

満州とアッツの将軍 樋口季一郎 指揮官の決断 (文春新書) 作者:早坂 隆 文藝春秋 Amazon 1943年(昭和18年)5月30日午後5時、大本営はアッツ島守備隊が「全員玉砕せるものと認む」と発表した。アッツ島守備隊は最後の突撃を行う前に電信装置を破壊したため、…

韃靼人の踊りの果て

世界史の誕生─モンゴルの発展と伝統 (ちくま文庫) 作者:岡田 英弘 筑摩書房 Amazon 「韃靼人の踊り」は、帝政ロシアの作曲家ボロディンのオペラ「イーゴリ公」の中の曲で、哀調を帯びた美しい旋律はテレビCMでもなじみ深い。 原曲名は「ポロヴェツ人の踊り」…

万葉のモーツァルト 古今のブラームス

七五調の謎をとく―日本語リズム原論 作者:坂野 信彦 大修館書店 Amazon クラリネット五重奏曲といえばモーツァルトとブラームスだろう。モーツァルトは1789年(33歳、死の2年前)に「クラリネット五重奏曲 イ長調」を、ブラームスは1891年(58歳)に「クラリ…

「ソ連」という信仰

ソ連という実験: 国家が管理する民主主義は可能か (筑摩選書) 作者:松戸 清裕 筑摩書房 Amazon ロシアのウクライナ侵攻後、同国の独立系調査機関レバダ・センターが3月に行った世論調査で、軍事作戦を支持するという回答が81%にものぼったというニュース…

木の上のゴッホ

ゴッホの手紙 (新潮文庫) 作者:小林 秀雄 新潮社 Amazon 先日、随分と久しぶりに従姉に会った。すでに還暦を過ぎて何年も経ったはずなのだが、相応に歳をとったようには見えない。若い時から鄙には稀なという言葉そのもののような人だったが、嫋やかな風情は…