多摩川通信

昭和・平成の思い出など

アフリカの中国人

 

アフリカ大陸自由貿易圏協定(African Continental Free Trade Area:AfCFTA)の運用が2021年1月からはじまった。アフリカの54カ国・地域が参加し、13億の人口と3兆4千億ドルの経済規模を持つ過去最大の自由貿易協定である。

国連の人口推計によると、アフリカの人口は2020年代にインドと中国を追い抜き、2030年に17億人、2050年には25億人に達すると見込まれている。また、アフリカの総人口に占める生産年齢人口(15歳~64歳)の比率は、2020年の56%から2050年には62%にまで上昇すると予測されている。

生産年齢人口比率の上昇は経済発展を促す大きな要因である。アフリカ大陸に眠る石油・天然ガス・各種鉱物などの巨大な資源とあいまって、アフリカが輝く時代が近づきつつある。

 

そのアフリカでも中国の存在感は大きい。現在、中国は輸出・輸入ともにアフリカにとって最大の貿易相手国であり、直接投資においても顕著な伸びを示して欧米の投資額に迫っている。日本の対アフリカ貿易額は中国の8分の1であり、その差は年々拡大している。

アフリカに進出した中国企業は 1 万社以上、在留中国人は 100 万人以上と推測されている。対して日本企業は約800社、在留邦人は 約7千人である。

アフリカに対する中国の開発協力は建国翌年の1950年から始まった。国際連合の原加盟国となった中華民国(台湾)に対抗するため、発展途上国を取り込んで国際連合の支持を得る狙いがあった。1990年代になると、中国経済の発展による資源需要の拡大に伴い、アフリカでのインフラ整備の見返りに原油や鉱物資源を獲得する動きが強まった。

 

 

「中国第二の大陸 アフリカ」(ハワード・W・フレンチ/白水社)は、2014年に米国で刊行されて注目を集めた。アフリカに渡った中国人を訪ねてインタビューを重ね、中国移民の実態に分け入ったものであるが、中国の体制や社会の実情に対する中国人の本音が現れている箇所があって興味深かった。そのいくつかを以下に抜き出してみる。

 

【ホテル経営者(浙江省出身)/リベリアの首都モンロビア在住】 

「アフリカに来ようと思ったのは、アフリカにいたことがある友達が大勢いたからです。どの国がいいのか、どこに行けば金儲けができるかまではわからなかったけど。ただ、中国はすでに発展が行き詰っていると感じていました」 

 

【中国国営大手土木会社の社長(40代)/マリの首都バマコ在住】

「息もろくにできないようなところに戻りたくはありません。きれいで安全なところで暮らしたい。混乱や心配はもうまっぴらです。

中国が抱える問題は多すぎる。文化大革命は私たちの文明の倫理や道徳の基盤を破壊してしまいました。尊敬、正直、努力、犠牲なども顧みられなくなりました。加えて、無教養で粗野な農民が8億人もいるんです。

自由は重要な概念ですが、中国では誤解されています。自由を与えられた者は何でもしたいことができると思ってしまう。責任も、他人への配慮も、法の順守もお構いなしです。

南シナ海での緊張の高まりは、ベトナムの国民性の問題です。アメリカと戦争していた間、我々は何年もベトナムを支えました。いろんな形で援助し、武器も供与しました。ベトナムは貧しく助けを必要としていた。私たちは自分たちだって満足に食べられなかったが、ベトナムを兄弟だと思って支えたんです」

 

【上記社長の補佐役(40代、フランスでの留学・就職経験あり)】

「政府はでたらめばかり並べ立てる。もし革命だか何だかの騒動がなかったら、もし戦争で国民党が勝っていたら、中国は30年も早く金持ちになっていた。そんなことは誰だってわかっています。終わりなき革命云々とかいう、私たちが聞かされてきたたわごとは反社会的で反人間的だ。

フランスやアメリカでは指導者は普通の人間です。中国の指導者は自分の思想体系を考案しなくちゃならないと思っている。まったくばかげている」

 

【砂糖生産プラント建設現場のエンジニア(30代)/マリの田舎町在住】

「中国は人が多すぎるから、外国に出て行って見つかる仕事は何でもしなくちゃならないんです。

中国は以前よりいくらか自由になりました。でも完全に自由じゃない。西欧とは比べものになりません。とはいえ、西欧の人たちも中国社会について誤解しているところがあります。中国共産党がどこにでもついてきて、いつ逮捕されるかわからない、なんてことはありません。

中国に戻ってみるとアフリカについてみんな何も知らないことがわかります。アフリカは不安定で危険以外は何もない地だと皆考えているんです。でも、それはよくないことしか報道されないからです。アメリカ人も中国人も、互いに相手のことをそんなふうにしか見ていない。ニュースで取り上げるのは負の面だけだから」 

 

【ホテル等の経営者(40代)/モザンビークの地方都市在住】

「大学卒業後に広東省で貿易の仕事を始めました。11年前に来たとき、ここに住む中国人は自分を含めて3人だけでしたが、今では400人を超えています。

自分の息子はアメリカに行かせたい。あれは束縛がない国だ。明瞭な法律もある。自由がある。

モザンビークの指導者たちは国の発展など考えちゃいない。その点は中国も同じですけど。胡錦濤汚職を取り締まれないでいます。中国でも世の中すべて金次第だ。だが、運のいいことに、我が国は手遅れにならないうちに成長のステップを踏み出せました」

 

【農園主(30代、湖北省の農家出身)/ナミビアの首都ウィントフック在住】

「中国にいる私の友だちで車を買える人はほとんどいません。社長になった人もいません。中国から出ていなかったら今の私はありません。

中国に戻るつもりはありませんし、戻りたいとも思いません。中国ではみんな抑え込まれて、苦労ばかり強いられる。不動産価格の高騰、土地の差し押さえ、地元政府のお手盛り行政、それに諸悪の根源である役人の腐敗など、まったくひどいもんです。

土地を持たない農民って一体何でしょう。だだの貧乏人じゃないですか。将来に何も期待できない。こっちだってひどいですけどね。でも、この国は中国ほど高圧的で不愉快なことはしない。中国では党が何もかも管理してるんだ」

 

【複数事業の経営者(50代)/ナミビアの田舎町在住】

「上海の製造会社で管理職をしていましたが、中国では家を買うほどの金はたまりませんでした。利益をしょっちゅう共産党に差し出さなければならなかったからです。中国の体制は党のためにあるのであってビジネスのためじゃない。金を手にするのはいつも党だ。

私がここに来た20年前、ナミビアは中国より裕福でした。最近の中国からの移住者は下層階級の人が多く、野望はあっても物事をうまく進める方法もマナーも知らない。この国の言葉を話そうという努力すらしない。ただ威張り散らして人を顎で使う。態度が横柄なのです。 

中国の国営銀行は年がら年中、貿易資金の低利融資を持ちかけてきます。融資条件はあきれるほど緩い。文書なんかほとんどいらないくらいです。金は余っています」

 

 

一連のインタビューを振り返って著者は、中国人のアフリカ移住はイデオロギーや政策などとは関係なく、無計画で行き当たりばったりなものが多かったことが印象深かったと記している。

アフリカのインフラ整備を受注した中国企業は、労働者をすべて中国から連れてくる。そのほとんどは事業が完成すれば帰国するが、アフリカの事情は本国で中国人の間に伝わり、現状からの脱出を渇望する者を惹きつけるらしい。

アフリカの各地で小商いからはじめて、その儲けで様々な事業に手を広げ、各地に中国人コニュニティを形成してしまう。夢破れて帰国する者も多い。そこに見てとれるのは、まさに華僑の進取の気象と自ら人生を切り開こうとする強靭な意志である。

 

その後、中国経済はさらなる発展を遂げ、軍事的プレゼンスの増大はあちらこちらで緊張の高まりを生んでいる。そのような中で、ごく最近、今後の中国を大きく揺るがすことになるであろう小さな変化が報じられた。中国の人口が減少に転じたかもしれないというのだ。

 2021年4月27日、英国のフィナンシャル・タイムズが状況に詳しい複数の関係者の話として、中国の人口が50年ぶりに減少したと報じた。何故か公表が延期されていた中国の人口統計は依然として人口は増加していると主張しているが、西側では統計データに対する疑念が広がっている。

その記事が出た翌々日、中国共産党系の環球時報は、人口統計学者の見方として「2022年にも総人口は減少に転じる」と伝えた。これは2027年にピークを迎えるとしていた従来の中国政府の見解よりも早い。共産党の足元でこのような報道があったことは注目される。

 

一人っ子政策による人口構成の歪みにより、中国の高齢化は急速に進むと見られている。生産年齢人口比率が急激に低下し、中国経済の成長が著しく減速した時、中国の体制にどのような変化が生じるだろうか。