多摩川通信

昭和・平成の思い出など

インターネットの抜本的な革新が必要では

 

インターネットの起源は半世紀以上も昔の米国国防省の実験プロジェクトにさかのぼる。1969年、米国の4つの大学のコンピューターを接続するネットワークの実験が開始された。この実験ネットワークが拡大し、1983年には軍用ネットワークが分離して非軍事ネットワークとして独立した。1990年代になってインターネットサービスプロバイダーが接続サービスを開始したことによって今日のインターネットが誕生した。

 

2007年6月、インターネットの利用に画期的な飛躍が起きる。iPhoneの登場である。携帯端末の全面にWebサイトを表示することによって、パソコンと同様の機能を手のひらで無理なく享受することができるようになった。

同年11月にはグーグルがアンドロイドを発表した。アンドロイドはスマートフォンオペレーティングシステムであり、メーカーに無料で公開された。

 

iPhoneとアンドロイドにはアップルとグーグルの志向の違いが端的に現れている。「アップル vs. グーグル」(小川浩、林信行ソフトバンク新書)は、インターネットの技術革新を牽引する2社の事業戦略の違いを明快に記している。

 

本書はアップルについて「iPhoneは、非常によくブラッシュアップされた製品だが、そこまで素晴らしく洗練できたのは、コンセプトから、工業デザイン、ハードの開発、オペレーティングシステムの開発、微調整、マーケティング戦略、流通、パッケージングまですべてをアップルがただ1社で行っているからこそだ」と述べている。

一方、グーグルについては「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」を使命とし、開発した技術を誰でも使えるオープンな形で提供しようとしていると見る。

 

一見するとインターネットが本来的に有するオープンな特質にはグーグルの目指す方向こそが合致しているように見えるのだが、実際にiPhoneを使ってみるとアップルの志向の正しさもまた揺るぎないものとして理解できる。

私は特段の理由もなくアンドロイドのスマートフォンを使ってきたのだが、たまたまiPhoneに替えたとき、その使い心地の良さと品質の高さに驚いた。iPhoneは使用者に快適さと楽しさを提供することによりインターネットの利用拡大を支えていると言える。

 

アップルの信念とこだわりには、日本の物づくりのあり方に通じるものがあるように思える。実際、本書には、日本企業による技術革新への敬意とともに皮肉な見方を示したスティーブ・ジョブズの次のような言葉が取り上げられている。

「iPodがこの世に、そして市場に存在しているのは、真に偉大な日本のメーカーたちのおかげだ。彼らはポータブルミュージックプレーヤーの市場を発明し、そこを押さえていたにもかかわらず、ちゃんとしたソフトをつくることができなかった」

この言葉は、ソフトウェアこそがインターネット時代における勝負の核心であり、日本企業はその核心を制することができなかったという点を突いている。

 

だが、スマートフォンに必須のカメラにしても、最初に携帯電話にカメラを付けてみせたのは日本のメーカーだった。そもそも携帯電話でインターネットを利用することを実現したのも日本のiモードだったではないか。日本の発想力と技術力がインターネットの新時代において再び大きく開花する日が来ることを確信している。

 

インターネットの主戦場は、今やパソコンやスマートフォンから、自動車をはじめとするかつては情報化の埒外であった様々な物へと移りつつある。その点で通信ネットワークの物理的な限界が気になる。

 

地球上に隈なく大容量データを配信するには、現在の常識からすれば、イーロン・マスクが構築を進めているスターリンクのような衛星ネットワークが必要となるのだろうが、マスクの構想では最終的に4万基もの衛星で地球を包み込む計画らしい。

これに加えて、最近、中国が独自の衛星ネットワークを構築する計画を発表した。スターリンクに対抗して4万基の衛星を打ち上げるという。合わせて8万基である。現在、地球を回っている衛星の数は約8千基だというから、10倍の衛星が新たに飛び交うことになる。

 

いくら何でも多すぎるだろう。これでは夜空の景色が変わってしまう。中国の衛星がスターリンクの衛星に接近してパクリと食ってしまう昔のテレビゲームのような悪夢が思い浮かぶ。全部食いつくすと中国衛星が集まって習近平の顔を形作って夜空を覆ったりしたら人類は絶望してしまうだろう。

 

こんな途方もない数の衛星が必要だということは、既に古い技術となったインターネットそのものの抜本的な革新が必要になっていることを示しているのではないか。現在の常識を超えた革新的な通信技術の開発ニーズが大きいのなら勝負は仕切り直しだ。日本の発想と技術が新たに大輪の花を咲かせる絶好のチャンスが訪れているのではないだろうか。